はぐれ雲。
そんなことがあったな、と彼女はふふっと笑う。
<ねぇ、新明くん。
私、あなたにバレンタインチョコをあげた覚えはないんだけどな>
『WhiteDay』と書かれた包み紙を見ながら、またクスクス笑う。
博子は手のひらのガラスの白鳥を空にかざしてみた。
先ほどよりも一層小さな光の粒が、辺りに散りばめられる。
<どんな顔であなたはこれを選んだの?きっとまた不機嫌そうな顔で、包んでもらうのを待ってたんでしょうね>
笑いと同時に、涙も一緒に込み上げてくる。
<ねぇ、新明くん。白鳥のつがいってね、どちらかが命を落とすまでは、ずっと二羽は一緒で、お互いの傍を離れないのよ。知ってた?
あなたのことだから、知らなかったでしょうね。知ってたら、私にこれをあげようだなんて思わなかったはずよ。
だってこの時、離れ離れになるってわかってたんでしょ?
それに、あなたはそんなロマンチストじゃないもの>
青いリボンを首につけた白鳥と、目が合う。
その時、風が斜面を駆け上がってきた。
その勢いの強さに「きゃっ」と思わず目をつぶる。
『ほんっとに、いちいちうるせぇやつだな、おまえは』
「え…」
そんな亮二の声が聞こえた気がして、ゆっくりと目を開ける。
「…新…」
『相変わらず、かわいくねぇな』
隣に彼が座っていた。
学生服を着た彼が。
太い幹にもたれながら…
目が合うと、優しく笑ってくれた。
あの水槽の、青い光の中で見せてくれた時と同じ笑顔で。
「新明くん…」
恐る恐る手を伸ばした瞬間
『…じゃあな…』
と霧のように彼は消えてしまった。
「待って!新明くん!」
<ねぇ、新明くん。
私、あなたにバレンタインチョコをあげた覚えはないんだけどな>
『WhiteDay』と書かれた包み紙を見ながら、またクスクス笑う。
博子は手のひらのガラスの白鳥を空にかざしてみた。
先ほどよりも一層小さな光の粒が、辺りに散りばめられる。
<どんな顔であなたはこれを選んだの?きっとまた不機嫌そうな顔で、包んでもらうのを待ってたんでしょうね>
笑いと同時に、涙も一緒に込み上げてくる。
<ねぇ、新明くん。白鳥のつがいってね、どちらかが命を落とすまでは、ずっと二羽は一緒で、お互いの傍を離れないのよ。知ってた?
あなたのことだから、知らなかったでしょうね。知ってたら、私にこれをあげようだなんて思わなかったはずよ。
だってこの時、離れ離れになるってわかってたんでしょ?
それに、あなたはそんなロマンチストじゃないもの>
青いリボンを首につけた白鳥と、目が合う。
その時、風が斜面を駆け上がってきた。
その勢いの強さに「きゃっ」と思わず目をつぶる。
『ほんっとに、いちいちうるせぇやつだな、おまえは』
「え…」
そんな亮二の声が聞こえた気がして、ゆっくりと目を開ける。
「…新…」
『相変わらず、かわいくねぇな』
隣に彼が座っていた。
学生服を着た彼が。
太い幹にもたれながら…
目が合うと、優しく笑ってくれた。
あの水槽の、青い光の中で見せてくれた時と同じ笑顔で。
「新明くん…」
恐る恐る手を伸ばした瞬間
『…じゃあな…』
と霧のように彼は消えてしまった。
「待って!新明くん!」