はぐれ雲。
幻だとわかっていた。

でも今、彼がそばにいる気がする。

そこに座っている気がする。


<会いに…来てくれたの?>

彼女は、彼が座っていた枯草の上にそっと膝をついた。

<そうでしょ?会いに来てくれたんでしょ?>


ポロポロと滴が頬を伝い、顎の先から落ちていく。

気がつくと、子どものように声を出して泣いていた。

ガラスの「つがい」を握りしめて…。


「どうして…!どうして死んじゃうのよ!バカ!」

博子はその太い幹に抱きついた。

「新明くん!」



夕暮れが迫る頃、彼女はその木の幹にもたれながら、川面をみていた。

まるで、亮二の肩に寄りかかるように…

<ねぇ、新明くん。
今回は突然遠いところに行っちゃたわね、それもまたずいぶん遠くに…>

博子は空を見上げた。
ぽつん、と紅に染まったはぐれ雲がひとつ、行き場を失って漂っている。

<ねぇ、新明くん…

ここの河原にはベンチがないのね。

こんなふうに座ってると、足がとっても冷たくなっちゃう。

あのね、ずっと考えてたの。
どうして私はあなたじゃなきゃいけなかったのかって…

初恋だから…?

ううん、そんな単純な理由じゃないってわかったのよ…>




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