はぐれ雲。

彼女はそのはぐれた雲に目を細めた。


<あなたは気ままに浮かんでる雲みたいな人だった。

ひとりぼっちでも、どこ吹く風…そんな人だった。

その雲は私が眩しいと思えば、さり気なく影をつくり、

寒いと思えば、そっとその身を引いて、陽射しを与えてくれる。

泣きたい時には、雨を降らせて頬を伝う涙を隠してくれた。

あなたはそんな雲だった…

私の表に出せない気持ちをいつも汲み取ってくれた。

口は悪くても、態度はぶっきらぼうでも、

それでも私は、そこにあなたの想いを感じた。

どんなにストレートな言葉よりも

どんなに着飾った言葉よりも

それらは優しく、深い愛を私に与えてくれた。

誰もこんなふうに私を愛せなかった。

あなたしか、こんなふうに私の心に寄り添える人はいなかった。

だからずっと私はその雲を、その背中を、あなたを追いかけての。


決して実らない恋だったけど、
それでも私は幸せだったわ。

決して叶わない恋だったけど、
それでも私の光だったの。

今、気付いたわ。

この恋が終わりを告げても、
ひとりであなたを想う日々が、私にはもう始まってたのよ。

あなたと過ごした一瞬一瞬がこれからも色褪せることなく私の中で生き続けるように、

あなたがこの世にいた、その証になるように

今度は、私があなたの心に寄り添って生きていく。

雲になったあなたを、この地上から見上げる。

いつでも、どんな時でも

あなたを仰ぐ…

ねぇ、新明くん。

これで本当に最後にするわ。
あなたを想って涙を流すのは。

ねぇ、新明くん…>


「ありがとう、新明くん」

亮二の巾着を、ガラスの白鳥と共に小箱に収めた。

そしてそっとそれを胸に抱き寄せる。

「ありがとう。決してあなたを忘れない…」

<ねぇ、新明くん?聞こえてる?>

次の言葉にためらいは微塵もなかった。


「私、あなたを愛してる」



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