はぐれ雲。
何年、

ううん…

何十年先になるかわからないけど、
いつかそちらで会った時には、
思いっきり泣かせてね。

それまで、どんなことがあっても我慢するから、私。

そして、こう言って。

「おまえにしては、上出来だ…」って。

「よく我慢したな…」って

そう言って…ね?


たまには私のこと、誉めてくれなくっちゃ。


ねぇ、こうやって時々私の独り言を聞いてくれる?

いちいちうるせぇやつだなって
文句言ってもいいから。

相槌なんてうたなくていいから…

お願いよ、私の話を聞いて。


ねぇ、新明くん?

あなたのいる場所から、
この高くそびえる山々が見える?

耳をつんざくほどの、
蝉の声が聞こえる?

この空が見える?
青く澄んだ空に、真っ白な雲…

はぐれ雲なんて、
もうどこにも見当たらない。

もう寂しい、なんて思わなくていい。

もう辛い、なんて思わなくていい。


どんなに意地悪な風が吹こうとも、

離れないで。

どんなことがあっても絶対に

はぐれないで…

私のそばにいて…

ねぇ…新明くん…>



葉山博子は、そう亮二に語りかけ墓前に花とあの缶コーヒーを供えた。

手を合わせ静かに目を閉じていると、ふと背後に人の気配を感じる。

砂利の音が微かにしたのだ。

ゆっくりと振り返ると、彼女は目を大きく見開いた。

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