はぐれ雲。

「葉山さんてさ、新明先輩と付き合ってるの?」

クラスの特に仲良しでもない女子からよく聞かれた。

「え!ないない。ありえない」

博子は顔の前で大きく手を振る。

「でも、毎日一緒に帰ってるよね」

「やっぱ、付き合ってるんでしょ?」

「やめてよぉ。う~ん、何ていうのかなあ。家も同じ方向だし、小学生の時から同じ剣道教室に通ってたし。まあ、幼なじみ…?みたいなもんかな」

そう答えたものの、周囲にそれなりの目で見られていることが、嬉しくもあり照れくさくもあった。

「そうなの。てっきり付き合ってんのかと思った。じゃあさ、私たちにも可能性ありってことよね?」

「え?可能性?」

博子の笑顔が少し硬くなる。

「だって新明先輩ってかっこよくない?剣道もすんごい強いって聞いたよ」

「そうそう。あの目がいいよね。ミステリアスで」

「そ、そうかな」

ますます顔がひきつる。

小学生の時はあれだけ敬遠されていた亮二なのに、中学生になるとあの無愛想さと誰にも媚びないところが女子にはウケるらしい。

「でも、女嫌いだって噂だけど、本当なの?」

「えっと…それは」

口の中が急に乾いたように感じる。

「だからぁ、博子にだけは優しいんだって」と突然真梨子が割って入った。

「ちょっと、やめてよ」

今度は耳まで熱くなる。

硬くなったり熱くなったり、彼女の身体は忙しい。


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