はぐれ雲。
蒸し暑い日が続くある日。
道場の裏から声が聞こえてくる。
水飲み場でスポーツドリンクを作っていた博子と真梨子は、そっと裏をのぞいてみた。
2年生部員3人が、何か言い争っている。
その中に亮二がいた。
座っている部員の一人は、以前剣道教室で博子にネチネチと文句を言った男子だった。
そいつを見るだけで、博子はムカムカする。
「返せよ、亮二」舌打ちをしながら、その男子部員が言う。
胴着姿の亮二の手には一箱の煙草が握られていた。
「おまえら、ふざけんな。こんなとこ見つかったら、夏の大会出れねぇぞ。他の奴らに、迷惑かけんなよ」
「迷惑なのはおまえだろ。大会出れなくなったら大変、大変。優勝候補が棄権ってな」
「言いたいことはそれだけかよ」
「まだあるぜ。博子といちゃいちゃしやがって、もうやったのか?もしかして小学生の時にやっちゃった?」
「おいおい、ちゃんと避妊しろよな。できちゃったら、それこそ試合どころじゃねえな」
「どうだった?気持ちいいのかよ、博子って」
「14歳でパパなんて、すげぇな」
「…もう一回言ってみろ」
「あ?なんだよ。やるときにはゴムつけろよって言ってんだよ!」
二人は馬鹿にしたような声で笑った。
「てめぇ…!」
亮二が一人の男子の胸ぐらをつかんだ。
今にも殴りかかる勢いで。