はぐれ雲。
「だから、おまえは黙ってろよ!
キャプテン外されたくせに、でかい口きくなよ!」
その言葉に、博子は思わずカッとなって言い返した。
「そんなの関係ないでしょ!」
意外なところからの反撃に二人は驚いたようだったが、すぐに矛先を博子に向ける。
「なんだよ、おまえ。亮二のことが好きなんだろ?」
ヒューッともう一人が口笛を吹く。
時代が変わっても、この時期の男子とはそういうものだ。
<男子って、ほんっとにくだらない!>
腹立たしさのあまり、返す言葉すら彼女には思いつかない。
むしろ、彼らの言うことにいちいち反応することすら無駄なエネルギーだ。
博子が振り返ると、防具を荷台に縛り終えた彼は平然とした顔で自転車にまたがった。
「あの…」
ためらいがちにそう言うのと同時に、彼の足は力強くペダルを踏み、自転車は風のようにその場を立ち去った。
かばってくれたのに、かえって嫌な思いをさせてしまった、彼女はそう思った。
そういえば、彼に対しても練習中に胴を外して誤って腰骨を打ってしまったことがある。
とても痛かっただろうに、彼はそんな表情を微塵も見せることなくただ面の奥の、冷たく澄んだ瞳を一瞬伏せただけだった。
<それなのに!>
博子は先ほどから文句を言い続ける男子を睨みつけた。
そしてもう一度彼の去っていった方向に目をやると、自分でもびっくりするほど、胸がドキドキしていることに気付いた。
それを打ち消すかのように、首を何度も横に振る。
<あれっ?気のせい、気のせい。絶対好きじゃない、あんなやつ。だって…無愛想で、怖いし…でも、さっきのはちょっとかっこいいかも…ほんのちょっとだけど…>
その胸の高鳴りに、博子は幼い言い訳をした。