はぐれ雲。
「早く来いよ。腹減ってんだよ。このノロマが」

博子がついて来ていないことに気付いた亮二が、遠くから叫んだ。

「待って、新明くん」

亮二に追いつく。

「おまえ、いい加減に先輩って呼べっつってるだろ」

「いいじゃない」

「他のやつらに示しがつかねぇだろ」

「みんなの前では呼んでないじゃない、新明くんって」

「先輩、とも呼んでねぇだろ」

「もう見栄っ張りなんだから」

博子はさっきの濡れたハンカチを差し出す。

「バカが、いらねぇよ」

うっとうしそうな顔をして彼は払いながら言った。

「でも、ちょっと腫れてるよ」

「いらねぇって」

「新明くん」

「新明先輩、だろうが」

<今日も明日もこうやって笑っていたい。付き合うとか、そんなのじゃなくていい。私、新明くんとずっと一緒にいたい。だから明日も待ってて。校門で待ってて…>

心の底から、そう思った。


何の進展もないまま、季節は巡り亮二が卒業を迎えた。

そうまた「春」が来たのだ。

彼は高校に進学する。

また置いていかれる気がした。

また彼が遠くなってしまう。

もうあんな想いはしたくない…

会えない彼を想って苦しくなるのは、もう嫌…

そう思っても、言いたいことが彼に言えない。

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