はぐれ雲。
卒業式を終えて、在校生も片付けをすませ、ぞろぞろと皆帰っていく。

卒業生はまだ写真を撮ったり、抱き合って別れを惜しんでいる。

博子はそんな人の波をくぐりぬけて、真梨子と校門を出た。

「おい」

聞き覚えのある声が、博子を呼び止める。

「え?」
まさかこんな日まで待ってくれているとは思いもしなかったので、驚いた。

「じゃ博子、私ここで。新明先輩、卒業おめでとうございます」

「おお」

真梨子はペコリとお辞儀をすると、生徒と保護者でごった返す中を縫うように去っていった。


「本当によかったの?みんな集まってたよ」

いつものように、小走りで博子は訊いた。

「面倒くせぇよ、あんなの」

卒業証書の入った筒で肩をたたきながら亮二は言う。

群れることを好まない性格なのは知っている。

<でも、最後くらいみんなと別れを惜しめばいいのに…>
と博子は思ったが口には出さなかった。

土手にさしかかる。

博子はいつもより口数が少なかった。

だって何て言えばいいのか、わからなかったから。

<卒業おめでとう…かな>
何か違う。

<第ニボタンちょうだい…>
ますます何か違う。

<でも何か言わないと…>
頭の中はグルグル回っていた。

相変わらず亮二からは何も話し掛けてこない。

だから余計に焦る。
もう一緒に帰れないかもしれないのに。

突然、亮二が土手を下りはじめた。

「待って」と慌てて博子も後を追う。

河岸まで来ると、亮二はやっと口を開いた。

「しけた顔してんじゃねえよ」

「え?」

「ぶっさいくな顔しやがって」

「ぶっ、ぶさいく!?」

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