はぐれ雲。
とは言ったものの、亮二のいなくなった学校生活は物足りなかった。
授業中、グランドに目をやっても体操服姿の彼の姿はない。
部活に行っても、彼はいない。
心にぽっかり穴があくって、本当にあることなんだと、博子は思う。
でも変わらず高校生の亮二は、中学校の校門前で待っていてくれた。
一緒にいる時間は減っても、二人の関係は前と何も変わらない。
家に帰っても、電話もしない。
手紙を書くこともしない。
もちろん、どこかにでかけたりもしない。
ただ、一緒に帰るだけ。
初めは嬉しくて、彼を校門前で見つけるたびに胸が躍った。
しかしそれも束の間、不安が彼女を襲う。
高校はやはり別世界。
大人の魅力を持った人がきっといっぱいいる。
亮二は無愛想だけどルックスはよかったので、きっとモテるんだろうな、そう思っていた。
実際に彼が中学の校門前に立っていると、女子中学生は色めき立つし、同じ高校の女子が彼を見つけると「亮二、何やってんの」と嬉しそうに声をかける。
「ちょっとな」
そう返す彼に、彼女たちは「今からマック行くんだけど、一緒にどう?」なんて誘う。
そんな場面に何度も出くわした。
その度に博子は隠れて様子をうかがい、彼女たちがいなくなって初めて亮二のところへ行く。
「お待たせ」と無理に笑って。
すると亮二はいつも通り、「遅せぇんだよ」と言って歩き出すのだった。