はぐれ雲。
部活が終わって、校門に向かうと、見覚えのある人影を見つけた。

<新明くん!>

自分でも意外だったが、ほっとした。

今週になって初めて会う。

部室を出る時、もしこのままずっと彼が待っていてくれなかったら、どうしよう、と不安だったから余計に。

無意識のうちに早足になる。
「新…」

「葉山」
亮二の名前を呼ぼうとして、それを遮るかのように背後から声がかけられた。

振り返ると、同じクラスの学級委員をしている男子が立っていた。

「ちょっと、いい?」

「…あ、でも…」
そう言って、校門を見遣る。

亮二がチラリとこっちを見たかと思うと、一人で歩き出した。

いつも博子と一緒に帰る方向へと。

「あ…」
胸がズキンとした。

「葉山?」

「え?」
その男子に向き直る。

「話、あるんだけど」
博子はうつむいたまま、亮二のことを考えていた。

<せっかく待っていてくれたのに>

自分に向けられた「好きだ」という言葉なんて、全く耳に入らなかった。

「葉山さ、付き合ってる人とかいるの?」

「え…ううん、別に…」

「じゃあ、俺と付き合ってくれないかな」

「えっと、その…」

<じゃあって何よ、じゃあって>
言い方が何だか気に入らなかった。

いや、亮二との時間を潰されたことに、苛立ちを感じた。

「…ごめんなさい!」

踵を返すと、博子は亮二の後を追った。

当然だが、もう彼の姿はなかった。

でも息を切らしながら、土手まで走る。

もしかしたら…そう思って。


案の定、彼の姿はどこにもなかった。

<新明くん、怒ったかな…>

しかし、すぐにその考えを改めた。

彼がさっきの場面を見て怒るということは、やきもちをやくということだ。

それは、亮二が少しでも博子を好きでいてくれるという前提に成り立っている。

亮二が博子を好きだ、なんて確証は、どこにもない。

はっきり言ってくれたこともない。

「あーあ、何やってんだろ、私」

博子は土手の斜面に腰をおろした。


その週は、亮二が校門前に立つことはなかった。
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