はぐれ雲。
次の週の真ん中。

亮二は待っていてくれた。

しかし、彼は何も言わず、
博子が来たのを見ると、スタスタと歩き始める。

毎日会わないせいか、亮二が「男性」として成長していくのを、博子はまざまざと感じる。

会う度にまた背も高くなって、背中も広くなった気がする。

二の腕まで捲り上げたシャツから見える腕の太さに、少しドキドキした。

一息ついてから、思い切って話し掛ける。

「高校の剣道部、どう?」

「別に」

「何かあるでしょ、ほら、マネージャーさんがかわいい、とか」

相手を探るように聞いてみた。

「バカか、おまえ」

相変わらず、口が悪い。

「教えてくれてもいいじゃない」

<久々に会ったのに…>
と、博子はしゅんとしてしまった。

バカなんて訊き慣れているが、今の博子には胸に突き刺さるようだ。

彼女は亮二の背中を見つめた。

<やっぱり言えない。他の人のところ行っていいよ、なんて。私だって新明くんのこと…>


思わず大きなため息が出る。

その瞬間、しまった、と思った。

亮二にもきっと聞こえただろう。

ますます博子は落ち込んだ。


「おい」足を止め、亮二が振り返る。

「おまえ、俺に言いたいことあるよな」

「…別に」

「言えよ」

「何にもないってば!」

思いもよらず大きな声で言ってしまった。

「…ごめん」と博子。

亮二が、不機嫌そうに空を見上げる。

羊雲とはよく言ったものだ、本当にモコモコの羊たちが群れているような夕焼け空だった。

「ったくよぉ。何なんだよ、マネージャーのことが聞きたいのかよ」

<別に、聞きたくないわよ>

黙りこくる博子に、彼は舌打ちをした。

「おまえの言う通りかわいいよ。スタイルいいし、性格いいし」

「そう、よかったね」

うつむく博子に、今度は亮二が大きなため息をついた。

「おまえも来年、うちの高校の剣道部入るんだろうが。マネージャーがどんなやつか、自分で見ればいいじゃねぇか。俺にいちいち説明させんなよ」

「え…」

「ちゃんと受験勉強しろよな」

「…うん」

「落ちんなよ」
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