はぐれ雲。
「ねえ、新人戦もうすぐだね。隣の県に、すっごい強い人がいるって知ってた?」

「知らねぇ、興味ねぇ」

「真梨子が言ってたんだけど、藤…藤田?藤本だっけ?まぁ、そんな感じの名前の人」

「なんだそれ。ちゃんと聞いとけよ」

「どうせ興味ないんでしょ!だったら、どっちでもいいじゃない。それより、がんばってね、優勝しちゃって!」

「おまえさぁ、俺がどんだけ強いか、まだわかんねぇのかよ。たいしたバカだぜ。もう俺と一緒の高校には行けねぇな」

「そんなこと言ってて、優勝できなかったらどうすんのよ」

「おまえの言うことなんでも聞いてやるよ」

「え?」

<なんでも?>

途切れた会話に、亮二がチラリと後ろを振り向く。

「あ…え、えっと。じゃあ、何してもらおうかな。新明くんがそんなこと言うなんて滅多にないことだから、よく考えて答えないとね」

「おお、いいぞ。でも俺は負けねぇから、考えても無駄だと思うぜ」

「そんなことないわよ」

「おまえさぁ、勝ってほしいのかよ、負けてほしいのかよ」

「ふふっ。究極の選択よね」

「バカが」

<ねぇ、新明くん。
優勝できなかったら、本当に何でも言うこと聞いてくれるの?だったら、私、あなたの正直な気持ちが聞きたい。私のこと、どう思ってるの?その答えを聞かせて欲しい>

しかし、そう思ったにもかかわらず、その答えを聞く時のことを考えてしまい、怖くなった。

前で組んだ手を強く握りしめる。

<…やっぱり負けないで。絶対に負けないでね>


「モタモタすんなよ」

「待って、新明くん」

走ると、セーラー服の胸元のスカーフがハタハタと風に踊った。





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