はぐれ雲。
連れてこられたのは小さな一軒のお好み焼き屋。

50代くらいのおばさんが一人で忙しそうにしている。

のれんをくぐると、丸い顔のそのおばさんが元気に迎えてくれた。

「亮ちゃん、いらっしゃい！あら、かわいい子連れてきて」

「どこがだよ」

亮二はぶっきらぼうに答えるとカウンター席に座り、
「おい、それ」と博子の近くにあった本棚から雑誌を取るように、顎をしゃくった。

おばさんはそんな彼を見て、「嫌なやつでしょ、ね？」と博子に笑いかけた。

彼女が雑誌を手に亮二の隣に座ると、すかさず「亮ちゃんの彼女？」とお好み焼きを焼く手を止めて、おばさんは聞いた。

当の彼はマンガを読み始めて、聞こえないふりをしている。

「いえ、そんな」

＜違います、たぶん…＞

焦って手を振った。

「でも亮ちゃんが女の子連れてるの、初めて見たけどねえ」

おばさんは意味深な顔で亮二をちらりと見ると、博子に片目をつぶってみせた。

まるで「大丈夫、彼女だよ」と言わんばかりのウィンクだった。


彼女は先に来ていたお客のお好み焼きを出すと、亮二たちの分を作り出した。

熱い鉄板に油を引き、生地を薄く円形にのばし、これでもか、というくらいにその上にキャベツを盛る。

「そばにする？うどんにする？」とおばさんは聞く。

「え？えっと…」

お好み焼きに麺を入れるのを初めて聞いて、驚いた。

「広島風お好み焼き」そうおばさんは教えてくれた。

亮二が「そば」と言ったので、博子は「うどん」と答えた。



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