はぐれ雲。

道場の前には、胴着を来た先輩たちが勧誘に出てきていた。

抑えようとしても抑えきれないくらい、胸が高鳴る。

<新明くん…>

博子は辺りをキョロキョロ見回した。

だが亮二の姿が見えない。

<こういうの嫌いだから、きっと道場の中かな>

そう思った。

「剣道部に興味ある?」

白い胴着を来た女の先輩が声をかけてきた。

「あ、はい。入部したいと思ってるんですが、一応どんな感じか見ておこうと思って」

真梨子がお得意の人懐っこい笑顔で答える。

先輩は「あなたも?」という表情で博子を見るので、コクリと頷いた。

「どうぞ、どうぞ。見学していって」

「失礼します」

そう言って道場に入ると、数人が素振りをしたり、柔軟体操をしていた。

「新明先輩、まだみたいね」

真梨子が耳打ちする。

「うん…」

博子は少し不安になった。

練習時間に遅れることを嫌う亮二が、まだ来ていないなんて。


時計の針がどんどん進んでいく。

準備運動から、とうとう面を付けての練習へと入っていった。

「あのぅ…」
いてもたってもいられず、表にいた白い胴着の先輩に尋ねた。


< 65 / 432 >

この作品をシェア

pagetop