はぐれ雲。
「あぁ、新明?あの子ねぇ」
気まずそうにそう言うと、近くの男子の袖を引っ張って何やら話をした。
話をバトンタッチされたその2年生の男子部員は、こう言った。
「新明ねーあいつ転校したんだってさ。俺たちもさっき聞いたばっかりで、びっくりしたよ。一言もなしにさー。なんか事情があったみたいだけど、一緒に入部したんだしさ、そういうこと言ってほしかったよなぁ」
「転…校?」
何を言っているのかわからなかった。
何がどうなっているのか理解できなかった。
<嘘。私をからかってるんだ>
博子は、辺りを見回した。
「…どこ?」
「博子」
真梨子が腕を引っ張る。
「どこ?新明くん」
「博子!」
真梨子が肩を強く抱いた。
「どこ?どこなのよ!出てきて!」
博子は立っていられないほどの、めまいに襲われた。
その後の部員たちの話など耳に入るはずもない。
<嘘よ>
その一言を何百回と繰り返していた。
気が付くと、校門前の大きな桜の木の下に立っていた。
「きれいだね~」
そう言って一組の制服を着た男女が見上げる。
<きれい?何が?>
上を見上げた。
薄いピンクの花が何万と折り重なって我こそはと、競い合っている。
その闘いに敗れたものから順にその花びらを落としていく。
途切れることなく舞い落ちる花びらの中、そっと手を差し出した。
ヒラヒラと狙っていたかのように、一枚の花びらが彼女の手に乗る。
まるで、「私をつかまえられるなんて、あなたはラッキーね」とでも言っているようだ。
博子はその花びらを握りつぶした。
どんなに力を込めても、その花びらは壊れない。
その幸せそうなピンク色は変わらない。
すこし皺がつくだけで。
<春なんて嫌い。こんな季節、なくなってしまえばいいのに。どうして春は私から彼を奪うの、どうして…>
博子の心から桜の色が消えた。
<どうして何も言わずにいなくなってしまったの?どうして私の想いを置き去りにするの?私はこれからどうやってあなたを想えばいいの?>
大切な蝶が、羽ばたいて遠くへ行ってしまった気がした。
気まずそうにそう言うと、近くの男子の袖を引っ張って何やら話をした。
話をバトンタッチされたその2年生の男子部員は、こう言った。
「新明ねーあいつ転校したんだってさ。俺たちもさっき聞いたばっかりで、びっくりしたよ。一言もなしにさー。なんか事情があったみたいだけど、一緒に入部したんだしさ、そういうこと言ってほしかったよなぁ」
「転…校?」
何を言っているのかわからなかった。
何がどうなっているのか理解できなかった。
<嘘。私をからかってるんだ>
博子は、辺りを見回した。
「…どこ?」
「博子」
真梨子が腕を引っ張る。
「どこ?新明くん」
「博子!」
真梨子が肩を強く抱いた。
「どこ?どこなのよ!出てきて!」
博子は立っていられないほどの、めまいに襲われた。
その後の部員たちの話など耳に入るはずもない。
<嘘よ>
その一言を何百回と繰り返していた。
気が付くと、校門前の大きな桜の木の下に立っていた。
「きれいだね~」
そう言って一組の制服を着た男女が見上げる。
<きれい?何が?>
上を見上げた。
薄いピンクの花が何万と折り重なって我こそはと、競い合っている。
その闘いに敗れたものから順にその花びらを落としていく。
途切れることなく舞い落ちる花びらの中、そっと手を差し出した。
ヒラヒラと狙っていたかのように、一枚の花びらが彼女の手に乗る。
まるで、「私をつかまえられるなんて、あなたはラッキーね」とでも言っているようだ。
博子はその花びらを握りつぶした。
どんなに力を込めても、その花びらは壊れない。
その幸せそうなピンク色は変わらない。
すこし皺がつくだけで。
<春なんて嫌い。こんな季節、なくなってしまえばいいのに。どうして春は私から彼を奪うの、どうして…>
博子の心から桜の色が消えた。
<どうして何も言わずにいなくなってしまったの?どうして私の想いを置き去りにするの?私はこれからどうやってあなたを想えばいいの?>
大切な蝶が、羽ばたいて遠くへ行ってしまった気がした。