はぐれ雲。
夜8時。
練習が終わると、道場は子どもたちのにぎやかな声で包まれる。
ゲームやマンガ、そんな話でもちきりだ。
博子も女の子たちとドラマや、流行の音楽の話で盛り上がっていた。
そこにいつもチョッカイを出してくる男子たち。
小学5年生、6年生の男の子というものは「性差」を敏感に意識する時期でもある。
わざとエッチなことを言っては、顔を赤らめる女の子の反応を楽しむ。
「うるさいわね、さっさとあっちに行きなさいよ!」
真梨子がシッシッと、うるさいハエを追い払うかのように手を振った。
それをいつも博子は笑いながら見ていた。
そして、次の瞬間には必ずある方向へと目がいってしまうのだった。
そう、「彼」に。
「新明亮二」、に。
そんな博子の視線に気付くはずもなく、亮二は誰とも言葉を交わさず黙々と片付けて帰っていく。
そんな新明亮二が嫌いならば気にしなくてもいいのに、なぜか博子は横目で彼を追っていた。
彼のミステリアスなところに惹かれたのかもしれない。
それとも、あどけない子ども心に、彼の持つ「陰」を感じ取っていたからかもしれない。