はぐれ雲。

署の仮眠室で達也は携帯を取り出した。

メール宛先は博子になっていたが、本文は空白のままだ。

話さなければならないことはたくさんある。

けれど、どこからどうやって切り出せばいいものか。

博子を傷つけたくない、そう思う。

それがかえって博子を傷つけているとは思いもせずに。

もう、博子は寝ているだろう。

それを言い訳にして、達也は携帯を枕もとに置くと桜井のいびきに苦笑した。


何日かして、達也たちが行動確認のために張り込んでいた男を強盗致傷容疑で逮捕する日が来た。

午前6時。

容疑者がまだ家にいる時間を狙う。

捜査員たちが車に分乗して、あのアパートに向かった。

男の逃走を防ぐため、階段、ベランダ下に捜査員が配置される。

達也は桜井とともに、男の部屋のチャイムを鳴らした。

「竹田さーん、おはよう。あけてか」

桜井はドアをノックした。

返事はない。

「竹田さーん」
もう一度桜井が呼ぶと、カチャリという鍵をはずす音とともにドアが10センチほど開いた。

すかさず達也が、ドアを大きく開く。

「おはよう、竹田さんやね。警察」

桜井は穏やかにそう言った。

達也は、寝ぼけた男の顔の前で逮捕状を広げると、淡々と読み上げた。

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