はぐれ雲。
「あーやれやれやな。まだ取り調べやら何やらあるけど、これでひとまず一段落やな」
桜井はデスクにうつぶせた。

「お疲れさまでした」
達也は紙コップに入れたコーヒーを差し出した。

「おお、サンキュウ」
達也も熱いコーヒーをすする。

<疲れた…>

正直な気持ちだ。

一つ事件が解決しても、また違う事件が彼らの前に立ちはだかる。

市民の生活を守るため、よくそんなフレーズで警察の特集番組が年末に流れたりする。

でも達也は思う。
市民の安全を守るために家族を犠牲にしている、そこまで言ってくれてもいいんじゃないかと。

<俺は助けを求めた妻とお腹の中の子どもを置きざりにして、刑事の仕事をとった>

ちらりと腕時計に目をやる。
昼前だった。

「よっしゃ、とりあえず今日は帰ろか」

「え?でも」
達也は驚いて桜井を見た。

「ええねん、ええねん。また明日からがんばったらええんや」

人懐っこそうな笑顔が達也に向けられた。
「ほな帰ろか」

署を出て、桜井と別れた達也は駅へ向う途中にポケットから携帯を取り出した。

呼び出し音が鳴り、柔らかな声が耳に届く。

「俺だけど。今から帰るよ。あと30分くらいかかるけど」
そう言うと、駅へとまた歩き出した。






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