はぐれ雲。
それには気付かないふりをして
「まあ、事件にもよるかな。四課が暴力団関係を扱ったりするんだけど、凶悪な事件になったときは、うちの一課も担当することもあるよ」と彼は答えた。
「凶悪って?」
意外にも、博子は身を乗り出して訊いてきた。
達也は苦笑しつつ
「知らないほうがいいよ」と言って、ご飯を一口食べる。
「最近は暴力団って言っても、大学を出たやつが構成員ってのも案外多いんだよ。いわゆるインテリってやつかな。それなりに、向こうも頭使っていろいろやってるんだろうな」
博子は真剣な顔つきで聞いていた。
「でも、どうしてそんなこと訊くんだよ」
「え、ちょっと昔の知り合いがね」
「トラブル?」
「う…ん、まあそんなとこ」
ぎこちなく頷いた。
「どこの組と?」
「圭条会…だったかな。あ、でもいいの!ごめんね、仕事の話持ち出したりして。そうそう、今日ねデザートもあるの。実家でイチゴいっぱいもらってきてね」
達也は、そんな博子の顔を盗み見た。
妻が目を合わせようとしないことが気になった。
博子が風呂に入っている間、達也はソファーに座ってテレビを見ていた。
バラエティー番組をやっていたが、初めてみる若いタレントばかりで、名前すらわからない。
「時代に取り残されてるな」
そうつぶやいて、リモコンでスイッチを切る。
ふと博子とのさっきの会話が気になった。
「圭条会…か」
しかし最近お互いにナーバスになっていたので、深く考えないことにして伸びを一つした。
そこにちょうど博子が風呂からあがってくる。
「明日は仕事早いの?」
と、冷蔵庫を開けながら訊ねる。
「ああ、7時前に家を出ようと思ってる」
「わかったわ」
グラスのお茶を注ぐと、彼女は一気に飲み干した。
こめかみの濡れた髪が艶めかしかった。