はぐれ雲。
その男は歩き続けた。

アザのある右手を、隠すようにズボンのポケットに突っ込んで。


彼はまさしく新明亮二だった。

そう、15年前。突然、博子の前から姿を消したあの亮二だ。

あれから長野の母の実家に身を寄せたが、突然帰郷した新明一家に対する風当たりは強かった。

すでに実家は母の兄が継いでおり、そこに頼ることはとても肩身が狭かった。

母の兄も、その妻も、あからさまに嫌な顔をした。

その上、人にこびることをしない亮二はかわいげがないと、疎まれるようになった。

自然のなりゆきとでも言おうか、亮二は次第にその家には寄り付かなくなる。

そしてとうとう、家を飛び出した。
行く当てもなく、気が付いたときには博子のいる街へ戻ってきていた。

頼るところもなく戻るところもなく、次第に孤独を紛らわせるために、夜の世界へと足を踏み入れるようになった。

暴走族に入り、毎晩のように闇を駆け抜けた。

怒りのやり場を探すかのように、バイクを走らせる。

赤信号を突っきても、怖くなかった。

死ぬことなんて、なんとも思わなかった。

こんなことを繰り返しているうちに、いつしか仲間ができ、暴走族のリーダーとなっていた。

そんな彼に目をつけたのが、圭条会の林哲郎だ。

林は圭条会の中でも特に力のある幹部で、近い将来の総長候補。
彼は亮二に対して、世間に対する憎しみの底知れぬエネルギーを感じていた。

案の定、亮二に仕事を任せると完璧にこなす。

黙々と指示を着実にこなす亮二は、林が「出世」をするたびに圭条会の中で「地位」を手に入れていった。

林の舎弟の中では、若いそんな亮二が短期間で「出世」していくことを快く思わない者もいた。

しかし、亮二は抜群の頭のキレと金集めの術に長けており、もはや林にとってはなくてはならない存在となっていった。

今、そんな暗い嫉妬の渦の中に亮二は身を置いている。

そこが彼が得た、唯一の居場所。


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