はぐれ雲。
彼に与えられた「仕事」は、高級クラブ数件と建設や金融関係企業の経営。

いわゆるフロント企業だ。
資本金や運営資金は圭条会の資産でありながら、経営陣には暴力団関係者と思われる人物は見当たらず、従業員たちも普通の会社に勤務していると思い込んでいるのが実態だ。

そこで得た利益は圭条会の資産となり、政治家や実力者へと流れていく。
亮二は圭条会の資産管理を担う一人であった。

高級スーツに身を包み、高級車を乗り回す。

口数が少なく端正な顔立ちの彼に、女たちはみな虜になる。

ミステリアスな魅力に、彼女たちは貢ぐことを惜しまない。

リサもその中の一人だった。
暴走族時代からの付き合いだ。

無口だったが仲間を決して裏切らない彼は、みんなから慕われていた。
そんな彼に憧れて、リサもこの世界で生きようと思った。

彼を愛していた。
彼のためなら、どんなことでもする。

そんな想いが実ったのか、いつしか亮二とリサは男女の関係になった。

リサは彼に群がる女たちが悔しがる様子を見て、気持ちよかった。

あたしこそが亮二にふさわしい女なのだと。

そして、今リサは本通りの高級クラブ「AGEHA」のママだ。
亮二の負かされたクラブのひとつ。

彼の期待に応えたい、リサは必死に彼のクラブを守った。


「ねえ、亮二、お願いよ。私にまかせて。自分でやってみたいの」

バーのカウンターでリサは亮二の肩にもたれた。

若いバーテンダーが上目遣いにその様子をうかがう。

「だめだ。もう少しがまんしろ。そのうち必ず任せてやる」

「もー、ケチ」
リサは赤いカクテルを口に含む。

AGEHAの経営について、リサが自分自身でやってみたいと出だしたのだ。

ママという責任者はリサだが、今は経営全てを亮二が仕切っている。

「じゃ、もう行くね。今日は仲井不動産の会長さんがいらっしゃるの」

そう言ってリサが亮二の頬にキスをして席を立ち、店を出て行くのをバーテンダーが執拗に目で追った。

「リサさんのお店、相変わらず調子いいみたいですね」

グラスを拭きながらそのバーテンダーは言ったが亮二は答えず、代わりに煙草を取り出すと火をつけた。


「新明くん」
そう自分に呼びかけた女の事を考えていた。

亮二は立て続けに、いつものように煙草を2本吸う。

そして耳に残るその声と、目を閉じると瞼に映る彼女の哀しそうな顔を振り払うかのように、酒を何杯もあおった。


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