はぐれ雲。
数日後、博子は再び本通りへと来ていた。
今夜も達也は遅い、いや帰らないかもしれない。
あの夜、亮二に会った夜から、博子は何日も眠れない日々が続いていた。
どうしても彼にもう一度だけ会いたかった。
圭条会の事務所に行けば、いるかもしれない。
でも、正直そんなことは怖くて仕方ない。調べた圭条会の本部事務所の住所を記したメモを、強く握りしめる。
最近はネットで検索すれば暴力団の本部事務所の住所までわかるのだ。
変な時代になったものだと思う。
ふと、達也のことが彼女の頭をよぎった。
「ごめん、博子」
そう言って、辛そうな顔で謝った彼のことを裏切っている。
あんなに優しい夫を悲しませるようなことをしている。
その自覚はあった。
<達也さん、ごめんなさい。確かめるだけ。彼が本当にここにいるのか…>
博子は一歩を踏み出した。
眩しいくらいの本通りから少し外れた一角に、圭条会が本部をかまえるビルが建っていた。
博子は少し離れたところから、不安げにそのビルを見つめる。
亮二がここにいないことを願って。
もうすでに辺りは暗い。
街灯が等間隔に立っている他は、自動販売機の明かりぐらいだ。
本当に彼はここの組員なのか。
もしかしたら間違いなのかもしれない、そう思いたかった。
「うちに何か御用ですか」