はぐれ雲。
突然の声に博子はビクッとした。
背後に身なりのいい中年男性と、いかにも怖そうな男が二人立っていた。
中年の男は、博子を上から下までジロジロと見る。
「いえ、ちょっと…人を探してたものですから」
しどろもどろに答え、恐々と立ち去ろうとする博子を彼は呼び止めた。
「誰をお探しですか?うちの組の者ですか」
とても丁寧な口調だった。
博子が想像していた荒々しさは微塵もない分、余計に不気味な感じが漂う。
「いえ、あの…失礼します」
博子は頭を下げると、足早に角を曲がった。
心臓が激しく動いている。
怖い。
物腰の柔らかさに相反して、なんてオーラなんだろう。
彼女はゆっくりと呼吸を整えると、物陰からもう一度事務所の様子を窺った。
あんな世界に彼はいるのだろうか。
なぜ?
そう何度もネオンに浮かび上がる彼の姿を思い出しては、思い出の中の新明亮二に問うてきた。