はぐれ雲。
亮二は階段を駆け降りた。
あの角を曲がったところに女はいる。
隠れたつもりでも、ニ階の事務所からは丸見えだ。
亮二は大またで、近付いた。
「おい」
その声に博子は再びビクッとした。
「新…明くん?」
博子は大きく目を見開いた。
<ああ、やっぱりここにいたのね…>
「何してるんだ、こんなとこで。人違いだっつっただろ」
苛立った口調で睨みつける。
「ごめんなさい、でも新明くん、私…」
「馴れ馴れしく呼ぶんじゃねぇよ!人違いだ」
「でも…」
何から話せばいいのかわからない。
「あんた、結婚してんだろ」
博子の左手の薬指の指輪を見て、彼は言った。
「え…えぇ」
女が左手を隠すように右手を重ねたのを見て、彼は舌打ちをした。
そして、林の痛いほどの視線が自分たちに向けられていることはわかっている。
彼がどういう行動を取るか、見ているのだ。
「じゃあ、何かよ。旦那じゃ物足りなくて、たまたまこの前ぶつかった俺に、抱いてくれってことか」
憎らしげにそう言い捨てると、彼女の顔がみるみるうちに紅潮していった。
「そんなんじゃないわ!」
博子がカッとなって言い返そうとした瞬間、亮二に手首をつかまれ奥に引きずられた。