はぐれ雲。
「ねえ、何を考えてるのよ、さっきから」

リサが亮二のたくましい胸に指を滑らせる。どことなく色気のあるその指の動き。
しかし、亮二は眉ひとつ動かす気配がない。

こういう時は何かあったのだと、リサは知っている。

さっきまでは気にならなかった強い香水の匂いが、今になって亮二の鼻をつく。

彼はたまらずベッドから出ると、服を着始めた。

すると取り上げたズボンのポケットから、小さな古い巾着が落ちた。
布地の擦り切れた、おそらく本来は紫色だったであろうその小さな袋。

彼はそれをゆっくりとつまむと、しばらく目の前にぶらさげる。

『小銭入れにもなんねぇよ、こんなもん』

昔の自分の言葉が蘇る。


「何それ」

リサがベッドの中からけだるそうにのぞきこんだ。

「前から持ってたわよね、それ。へその緒か何か?」

亮二は鼻で笑った。

「へその緒、か…そういうことにしておくか」

そう言うと、ポケットに乱暴に突っ込んだ。

「ねえ、そんなことより、泊まってって」
と甘えた声がまとわりつく。

「また今度な」

亮二が上着を肩にかけ、目を合わせることなくリサの部屋を出ようとした時、チッという彼女の舌打ちが扉を閉めようとする彼の背中を追いかけてきた。



その頃、林は例の報告に頬を緩めていた。

「亮二を呼べ」と言いながら、足を組み替えた。




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