チャリパイ8~恋のエンゼルパイ~

急にベンチの後ろに植えてある背の低い椿の木が、ガサガサと音をたてた。


耕太と詩織が驚いて振り返る。


ミャア~~


「なんだ…猫か~♪びっくりした♪」


耕太はフリースのポケットを漁ると、ビスケットの袋を破って猫の方に小さく投げた。


猫はビスケットに飛び付くと、それを一口でたいらげ、今度は耕太の足の周りにまとわりついて“もっとくれ”と催促し始めた。


「ごめんよ…ビスケットはもうおしまいだよ……」


背中を撫でようと差し出した指先を、ザラリとした舌で舐める猫。


耕太はそんな猫を少し可哀想に思った。


「最近じゃ、ゴミの管理もキチッとしていてあんまり餌にもありつけないんだろうな……」


「けど……」


猫を撫でながら、詩織が呟いた。


「私は猫が羨ましいわ……自由で気ままで…何事にも縛られない猫が……」


そう言って、寂しそうに遠くの一点を見つめる詩織。


その気になれば、本など幾らでも買える身分の詩織が何故わざわざ図書館で時間を潰すのか?……耕太はあえてその理由を訊かずにいた。


かわりに
“そうだね”と言って優しく微笑んだ。

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