チャリパイ8~恋のエンゼルパイ~
詩織もまた、北条家の大邸宅の自分の部屋で窓の外をぼぅーっと眺めていた。
原因は、耕太のホモ疑惑……ではなかった。
最後に図書館を訪れたあの日…家に帰った詩織に対して、この家の主(つまり詩織の父親)である『北条亀吉』は、とんでもない話を持ち出してきたのだ。
「お見合いですって!」
「そうだ…少々早いとは思ったのだがな…ウチと取引のあるIT事業の若社長が、お前の事を随分と気に入ってくれてな♪
早いうちに結婚して、元気な男子を産んでくれれば北条家としても……」
「いい加減にして!……私はお父様のペットじゃないのよ!
いったい私の自由は何処にあるのよ!
」
幼い頃から北条家のしきたりという枠に縛られ、学校も習い事も対人関係までもが父親の厳しい監視下に置かれていた詩織……
毎日図書館に通っていたのは、少しでも家に帰るのを遅らせようとする詩織の精一杯の抵抗からだった。
夜の公園で餌をねだる猫を、自由で羨ましいと言ったのは、詩織の本当の気持ちだった。
家にいても苛立ちはつのるばかり…そんな気持ちに堪えきれずに、詩織はこの夜家族の目を盗んで家を抜け出した。
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