チャリパイ8~恋のエンゼルパイ~
薄暗い店内は、店の名前のイメージ通り寂れたネガティブな雰囲気が漂っていた。
悪酔いして、クダを撒き散らす客……
壁に寄りかかって続けざまに煙草を吸い続けるバーテン……
そんな中で、詩織の存在は少し浮いた感じがした。周りの客も、何故こんな店に上品そうな娘が居るのかと少し奇異の目で見ていた。
そんな周囲の事など気にせずに、あまり飲めないカクテルを比較的速いピッチで飲み続ける詩織。
シチローは、ここで勝負に出た。
今までは、詩織に身分を隠しもっぱら耕太の後方支援に徹していたシチローだったが、この際身分を明かして詩織の本心を聞いた方が得策ではないかと思ったからだ。
シチロー達4人は、無理をしてカクテルを煽っている詩織に近付き声をかけた。
「詩織さん♪」
「えっ?」
誰も知る筈の無いこの店で、不意に名前を呼ばれ詩織は驚いて振り返った。
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