NAIL
 ドクンドクンと口から心臓が飛び出そうなくらい高鳴っている。里沙が達也の事を好きだったなんて。ファンクラブに入っている事は何となく解っていたが、そこまで想っていたなんて。

 膝がガクガクと揺れる。辛うじて立っている状態だ。ここで倒れては音が立つ。絶対に気付かれてはならない。

 美知子は二人の足音が完全に聞こえなくなるまでその場に立ち尽くし、ずるずるとその場に座り込んでしまった。

 席に戻るのは躊躇われた。隣の席には里沙がいる。先程の様子から見て、何をされるか解ったものではない。

 だが、まだ今日の業務は終わってはいなかった。美知子は何度も深呼吸を繰り返すと、意を決して自分の席へと戻った。

「あ、美知子」

 ビクンと身体が硬直する。席に着いた途端、里沙に話かけられたのだ。何を言われるのだろうか。深呼吸で折角宥めた心臓が、また暴れ始めた。

「何処に行ってたの? もしかして体調悪い? 大丈夫?」
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