NAIL
 いつもと同じ態度の里沙。いや、いつも以上に優しいかも知れない。大袈裟に心配しているようは、見ていて気持ちが良い物ではない。

「だ、大丈夫……。ちょっと、更衣室に行ってただけ」

 美知子は冷静に、普段通り喋るように努めた。動揺を相手に悟られては駄目だ、そう思ったからだ。

 夢でも見たのではないだろうか。そう思わせる程、里沙の態度からは先程の怒りは微塵も感じられない。これが演技だとしたら、彼女は女優にでもなれるだろう。

 今日ほど、時間の経過が遅く感じた事はない。一分一秒が倍、いや、それ以上に長く感じられた。隣でカタカタとパソコンのキーボードを叩く指には可愛らしい花が咲いていた。

「じゃ、今日は頑張ってね」

 終業と同時に里沙が美知子の肩に軽く手を乗せ、おどけてウインクして見せる。美知子は何も答える事が出来ず、曖昧に頷くしかなかった。
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