NAIL
 里沙は、どういうつもりなのだろうか。達也との事を問いただす訳でもなく、美知子を罵倒するでもなく、笑顔でいつも通りに接してくる。

 達也さんの事は諦めた?

 いや、それは無い、と心の中で否定する。トイレでのあの様子だと、とてもそうは思えない。だとしたら、何かを企てているのだろうか。

 美知子はぶるりと身体を震わせた。あの笑顔の裏に隠された心を思うと、どす黒い霧のイメージしか浮かばない。

「お口に合わなかったかね?」

 その言葉でハッと我に返った。課長と食事中だったのだ。

「いえ、そんな事はありません。とっても美味しいです」

 にっこりと微笑んで、美知子は答える。正直、料理の味なんてちっとも頭に入っていなかった。里沙の言動が気になって仕方がない。

 しかし、そんな彼女の気持ちを知るよしもなく、課長は満足げに頷いてみせた。勿論、仕事の話など一切していない。
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