NAIL
 美知子は課長に気付かれないように溜め息を吐いた。お酒はあまり飲めない方なのに、やたらと勧められる。仕方無く飲んでいたら、やはり酔いが回って来てしまったらしい。視界がぼんやりと霞み、焦点が定まらない。

「あの、私、これで、失礼、しま、す」

 何とか理性を保ちつつ、たどたどしい口調で暇を告げる。が、課長は美知子の手を掴み、握った。

「送って行くよ、随分酔っ払っているみたいだし」

 正直、ちゃんと家に辿り着けるか不安だった。だが、課長の態度を見ていると、送って貰うのも何となく危険なような気がした。

 躊躇していた美知子を、課長は強引にタクシーへ乗せると、行き先を告げた。彼女には既に課長の言葉を理解する事が出来なかった。

 世界がぐるぐる回り、身体がふわふわと浮いているような感覚。それはあのネイル屋を思い起こさせた。

 暫く走っていたタクシーは止まり、目的地に着いたらしい。果たして、自分は自宅を課長に伝えておいただろうか。
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