NAIL
「そぉ?」

 だからこそ、彼女に『綺麗』と言われた事が堪らなく嬉しかった。心が弾むというのは、こういう事を言うのだろうか。

 美知子は満面の笑みを彼女に返した。彼女も美知子に微笑み返す。

「あ、そのネイルも綺麗! いつもの所の新しいデザイン?」

 そう言って、里沙は美知子の指先をじっくりと眺めた。彼女の指にも綺麗なネイルが輝いている。白地に、鮮やかな蝶々が舞っていた。

 違う、と言いかけて、美知子は躊躇した。

 彼女は普段から綺麗だ。綺麗な上に、綺麗なネイルをしている。あのネイルサロン、いや、ネイル屋を教えたら、彼女は益々綺麗になってしまう。

 些細な邪心が美知子の中で生まれた。彼女に教えたくない。綺麗になるのは自分だけで良い。

「う、うん。そうなの」

 多少の罪悪感を覚えつつも、美知子は嘘を吐く事にした。たいした嘘ではない。これくらいなら許されるだろう。

 里沙は何の疑問も抱く事もなく、あっさりと信用してくれた。
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