それでも君が。
プロローグ
「羽月(ハヅキ)! 知ってた!?」
ある日の放課後、他には誰もいない静かな教室で、私はそう詰め寄られた。
詰め寄ってきた人というのが、私の一番の友達である澪(ミオ)ちゃんだ。
わずか数センチでキスしてしまうかも、という所まで顔を近付けてきた彼女の形相を見て、ただ事ではないと察し、尋ねた。
「知ってたって……な、何を?」
「矢元蒼汰(ヤモト ソウタ)先輩に彼女が出来たって!!」
「……は、へ?」
「気の抜けた声出してんじゃないよ。どうなの? 嘘? ホント?」
嘘? ホント? と聞かれても……
帰る準備のためにカバンに入れようとしていた教科書から思わず手を離してしまい、それらは音を立てて床に落ちた。