それでも君が。
ラブラブです。
「──最後になりますが、皆さん知っての通り、最近この辺りでは、不審者が出ています。夏休み中、くれぐれも気をつけるように」
壇上に立つ校長先生は、「では。有意義な夏休みを」と付け加え、お辞儀をした。
私達生徒もまた、頭を下げる。
蒸し暑いという以外には何とも表現出来ない、体育館の中。
校長先生の話は、長かった。
とりあえず、要約すると、こういうことになるだろう。
“よい夏休みを”。
解散の声がかかり、ふと身体の力を抜くと、列の前の方から私を呼ぶ声がした。
見ると、こっちに歩いてきている澪ちゃんが。
「羽月! 購買寄ってこ」
「いいよー」
「ったく、校長の話の長いこと長いこと。あれ、何とかなんないのかね」
「仕方ないよ。生きがいだよ」
「それで片付けてしまうアンタが切ないよ」
手をうちわ代わりにしてパタパタと動かす澪ちゃん。
そんな風にしてる生徒が、周りにもチラホラ。
皆だるそうな足取りで、体育館から出ようとしている所だ。
すると、澪ちゃんがふと思い出したように言った。
「てか、怖いね、不審者」
「あー、うんうん。何かこの前、K高にいる友達の友達が遭遇したとか言ってたよ」
「へぇ、大丈夫だったのかな」
「うん。かすり傷で済んだみたい。でも、ナイフ持っててね、暗い所に引きずり込まれそうになったって」
「強姦目的?」
「うん……この辺、学校多いしね……狙ってんのかも」
言いながら、悪寒がした。
どんなに怖かっただろう。
きっと、私のちっぽけな想像ではとてもじゃないけど、追いつかないよね。
「羽月」
背後から低い声が響き、反射的に振り向いた。