それでも君が。




その笑顔には少しだけ人懐っこさがあり、彼の冷たいイメージが一瞬だけ覆された。



──やだ。



この人に惑わされる女の人達の気持ちが分かるとか、思っちゃった。





「別に、と、藤堂君のために作ったんじゃないけど……」


「え? お前が作ってんの?」


「え……う、うん……」


「へー。すげぇな。マジで美味かったぜ」


「……ありがと」


「いや。こちらこそ。じゃあな」


「あ……うん……」


「……それと、昼間は悪かった」


「……え」





聞き返したけど、藤堂君は何も言わず、髪の毛を触りながら、だるそうに2年の靴箱の方へ歩を進めていった。



──別れたらいい、と言ったことに対して、謝ってくれたのかな……?



やっぱり、悪い人じゃないんだよな……。



彼の姿が見えなくなると、横にいた蒼君が、私の手首をギュッと握ってきた。



見上げると、蒼君は少し細めた目を私に向けてきていた。



そして、何かを言う間もなく、私の腕を引っ張るようにして歩き出す。



靴箱はそこだと言うのに、反対側へと歩を進める蒼君。




< 140 / 292 >

この作品をシェア

pagetop