それでも君が。
その笑顔には少しだけ人懐っこさがあり、彼の冷たいイメージが一瞬だけ覆された。
──やだ。
この人に惑わされる女の人達の気持ちが分かるとか、思っちゃった。
「別に、と、藤堂君のために作ったんじゃないけど……」
「え? お前が作ってんの?」
「え……う、うん……」
「へー。すげぇな。マジで美味かったぜ」
「……ありがと」
「いや。こちらこそ。じゃあな」
「あ……うん……」
「……それと、昼間は悪かった」
「……え」
聞き返したけど、藤堂君は何も言わず、髪の毛を触りながら、だるそうに2年の靴箱の方へ歩を進めていった。
──別れたらいい、と言ったことに対して、謝ってくれたのかな……?
やっぱり、悪い人じゃないんだよな……。
彼の姿が見えなくなると、横にいた蒼君が、私の手首をギュッと握ってきた。
見上げると、蒼君は少し細めた目を私に向けてきていた。
そして、何かを言う間もなく、私の腕を引っ張るようにして歩き出す。
靴箱はそこだと言うのに、反対側へと歩を進める蒼君。