それでも君が。
──そして、頬から唇を離したのとそれは、ほぼ同時だった。
蒼君は、私の首に手を当てたまま、今度は唇に唇を当ててきた。
自然に落ちるように閉じた、私の瞼。
あの日より優しい、口付け。
緊張からか、蒼君の顔に当てている手が、小刻みに震える。
「……熱い」
唇を離した蒼君の口から、そんな言葉が出た。
「え……? 何が?」
聞き返すと、蒼君は自分の額と私の額のそれぞれに手のひらを当てた。
「熱があるな」
「嘘!」
自分の手のひらを当てて確認する。
でもこんな時、自分では、熱いことはなかなか分からないものだ。
自分の手も熱くなってるからだろう。
──でも、そう言えば、ゆりちゃんに顔色悪いって言われたな。
「帰ろう」
窓を閉めながらそう言って、蒼君は私の鞄までもその手に持った。