それでも君が。
「蒼君、いいよ、私、自分で持つ」
急いでベッドから降りて、蒼君に近寄る。
「気にすんな」
そう言って、蒼君は目の前に立った私の前髪をスッと撫でた。
さっき額を触ったりしたから、乱れていたんだろう。
鼻の奥が、注射針を刺されたように、キュゥッと痛んだ。
私の前髪に触れる指の先にある腕は、バスケのおかげでついた程よい筋肉で引き締まっている。
「……蒼君……」
「なに?」
「……どうして、触れてくれるの?」
「……え?」
蒼君は一瞬だけ、ほんの一瞬だけ目を見開き、私から手を離した。
「私が蒼君に触れたら、触るなって……言うのに……」
「………」
「どうして、私は触っちゃいけないの? 何か、理由があるの?」
「理由なんてない」
ハッキリとした口調で、私から目を逸らしながらそう言った蒼君。
別に、突き放すような言葉じゃなかった。
でも、何だか感じた。
拒絶というと聞こえが悪いけれど、それに近い……
それ以上聞けないような、空気。