それでも君が。
そう言って、私より前の席にいる彼が振り向いたと思ったら、何と彼の指が、私に向いていたのだ。
──え?
「岩越か。先生はいいと思うが、岩越どうだ?」
先生がそう言って私を見るから、皆も一斉に私を見てくる。
ここで断るには、私の心臓はあまりにもミクロだ。
私は、「や、やります」と答えるしかなかった。
「今年は早く決まったなぁ」
とか何とか、珍しく上機嫌な先生。
藤堂の背中を睨むようにしていると、その視線に気付いたのか、彼もこちらを振り向いた。
咄嗟だったから、睨んだままの目を戻すことが出来なかった。
すると、藤堂君はフッと軽く笑い、また前を向いたのだ。
──いつもの、ちょっと馬鹿にするような笑みじゃなかった。
少し、空気が柔らかくなった……?