それでも君が。
──蒼君に……彼女?
そんなの、知らないよ。
聞いて、ないよ。
「羽月? おーい!」
澪ちゃんが私の目の前で、手のひらを左右に動かす。
私は慌てて笑顔を浮かべた。
「知らない、けど……そんな噂があるってことは、ホントなのかもね」
「そっか知らないんだ……。羽月は矢元先輩と幼なじみだし仲いいから、知ってるかと思ったんだけどー」
「……ごめんね。役に立てなくて」
「何言ってんの。私はいいの、別に。矢元先輩に彼女がいようと、いまいと。その噂にヤキモキしてんのは、矢元先輩のファンクラブ名乗ってる人達だよ」
澪ちゃんは、その真ん丸な目を片方だけ細め、ニッとイタズラっ子みたいにして笑う。
私は、笑えないけれど。
──蒼君、どうして、私に何も言わずに……
そこまで思って、ハッとする。
ただの幼なじみの私に、そんなことを根ほり葉ほり聞く権利なんか、ないのかもしれない。