それでも君が。
「羽月、知ってる?」
私がリストバンドに針を通すのを黙って見ていたお母さんが、急にそう言う。
「何を?」
「蒼ちゃんのお母さんから聞いたんだけど。蒼ちゃんね、明日からアメリカ行くんだって」
「……は!?」
その衝撃的な発言に、眉を歪めてお母さんを見る。
お母さんはコップにポットの水を注ぎながら、フゥッとため息をついた。
「1週間くらいらしいけど……」
「ど、どうして!?」
「どうしてって……バスケ関係に決まってるじゃない。全国の高校生から何人か選ばれて、勉強会みたいな感じらしいよ。晴ちゃんも」
「……知らなかったよ……そんなの」
「……蒼ちゃんも、うっかり言うのを忘れてたのよ」
優しく笑みを落とし、お母さんは言った。
──わざと、言わなかったんだろうか。
晴君も、私に言う機会なんてたくさんあったのに、何も言わなかった。
「ほら、余計ほつれるよ」
すっかり停止した私の手元を覗き込みながら、お母さんが言う。
ハッとして、また動きを再開させた。