それでも君が。
──コンコン。
その音と共に、白いドアが微かに動く。
「はい」と答えると、白衣を着た先生と、看護師さん、そしてお母さんがゾロゾロと入ってきた。
「どうですか。具合は」
50歳くらいだろうか。
笑うと目元に皺が出来る、優しそうな男の先生がそう言った。
この先生は、そうだ……。
私が、記憶をなくした時にもお世話して下さった先生……。
私が「……大丈夫です」と答えると、看護師さんが私の腕に、血圧を測る道具であるものを巻き付けた。
「一緒にいた男性から聞いたけど。記憶が戻ったのかい?」
穏やかに響く、先生の声。
私は、真上を見たまま「はい」と言った。
「そうか……まぁ、今はまだ無理して整理しようとしなくてもいいよ。刑事さんにも、しばらくは、事情聴取なんかは勘弁してもらうよう言っておくからね」
その言葉に、ホッとした。
今はまだ、誰かにその状況を説明出来る程、鮮明に思い出したくはない。