それでも君が。
「本当はさ」
蒼君が、今までお母さんが座っていた、ベッドから見たら右側にある椅子に腰掛ける。
そして、話し出した。
「本当は、医者に止められたんだ」
「……え?」
「羽月の病室に行くのを止められた。記憶がなくなった奴が、その記憶を取り戻すのって……当たり前だけど、すげぇ精神的負担だろ」
「………」
「……特に俺は……行かない方がいいってよ」
薄く笑い、蒼君はハーッと息を吐いた。
そして、様子を窺うように、私の顔を見る。
その綺麗な目を真っ直ぐに見てしまったら……
もう拒絶することなんて、出来ない。
「羽月……ごめんな。行かない方がいいって言われても……我慢出来なかった。お前を混乱させんのは、分かってたのに。でも、会いたくて」
蒼君の顔が、一気に歪んだ。
まるで水の中から彼を見ているかのような錯覚に陥るくらい……
そうさせるくらい、私の目には、たくさんの涙がたまっているんだろう。
それを振り切るように、強く首を横に振った。