それでも君が。
部屋の向こうからは、パタパタと看護師さんが歩く音や、お見舞いに来たんであろう人達の声が聞こえる。
不思議と、そこが異世界みたいな気がしていた。
「蒼、君……」
出した声は、かすれた。
それでも蒼君は、「ん?」と優しく聞き返してくれる。
「……蒼君は……私と別れようと思ってた……の?」
「………」
「だから……あ、あんなに……冷たかったの……?」
「俺が傍にいたら……お前がいつ記憶を取り戻すか分からなかったから」
「……え……」
「……あんな記憶……抹消できるものなら、そうしたかった」
私から完全に身体をも背け、ただベッドに腰掛けた状態で壁を見つめる蒼君。
その背中は、何だか疲れ切っているようにも見える。