それでも君が。
「……蒼君が傍にいるからって……そんな……す、すぐに記憶が戻るだなんてこと……」
「医者には。あまり傍にい過ぎると、危険なこともあると言われたんだ。羽月のあの記憶の鍵は、俺と犯人でしかないんだからな」
「……」
「……それに……あの時についた傷痕。それをお前に見られたら、もう終わりだと思ってた。……確実に、記憶が戻るって……」
そう言って、蒼君は右の横腹に手を当てた。
自分の横腹が痛むような気がした。
ズクン…と、疼く。
──ううん…
疼いてるのは、胸の奥の方だ。
ある予感が、脳裏をかすめて止まない。
「お前に……嫌われるって方法しか、思いつかなかった」
頭を前に低く傾け、蒼君は言った。
身体全体が、力を無くしていく。
蒼君の感情が、流れ込んでくるみたいに……。
「お前に別れようって言うのは、簡単だ」
その言葉に、ビクッと身体が反応する。
でも蒼君は、こう付け加えた。
「俺が傍にいないことで、お前の記憶が戻らないなら……。それでお前を守れるなら、そんなことくらい簡単に言える」