それでも君が。




「羽月」





前方のドアから、私を呼ぶ低い声が聞こえた。



そこには、噂をすれば何とやらなのか、蒼君が教室を覗き込むように立っていた。



その顔には、いつも女子の皆さんを虜にしている爽やかな笑みが張り付けられている。





「蒼君!」


「靴箱見たら、まだ靴あったから。一緒に帰ろうか」


「え……で、でも」


「先約?」





蒼君は澪ちゃんに目線を移し、ニコリと笑いかける。





「あああ! いえいえ! とんでもない! 大丈夫ですよ! 私これから部活なんで」





そんなに力いっぱい否定しなくとも……というくらい、ブンブンと手を左右に振る澪ちゃん。



何故か私に向かって意味不明なウインクを残し、そそくさと教室を出ていってしまった。






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