それでも君が。
「……蒼君が、来てくれないの」
ポソリと出した私のその言葉に、澪ちゃんの表情が固まった。
「澪ちゃん?」
「えっ……ああ……ううん。蒼先輩が……?」
「うん。病院って、携帯使えないでしょ。だからって1日中公衆電話の前にいることも出来ないし」
「……そっか」
「家に電話してもね、いつもいないし……」
「色々忙しいんじゃない? 受験生だしさ」
「……うん」
──でも、思わずにはいられないよ。
会いたいな。
会って、いつもみたいに頭をクシャッて撫でてもらいたい。
あの優しい声で、“大丈夫?”と言ってもらいたい。
何より、彼の空気に触れたいの。
「とにかくさ、退院してからも安静にはしてなきゃいけないと思うけど、どこか出かけたりしようよ、ね?」
澪ちゃんは、「夏休みだしね」と付け加えた。
私は、笑顔で頷く。
その時、コンコンッと、ドアが音を立てた。
「はい」と返事をすると、そのドアがガーッと音を立てて開く。
そこから姿を見せた人を見て、笑顔が出るのを止められなかった。