それでも君が。
「羽月……」
「こ……こんなこと、しちゃ、ダメだよ」
「……こんなことって何?」
「………」
「どうしたんだよ。羽月、何か変だぞ」
「……別に……でも、一緒には、帰らない。もう二度と……帰らない」
「……え?」
「彼女、出来たんでしょ? 特別な人がいるのにっ……私なんかと一緒に帰るなんて……ダメだよ」
「………」
嫉妬丸出しだ。
心の中で、自分の子供っぽさにほとほと呆れていた。
でも、どうしようもない。
私はまだ床に残っていた教科書を拾い、立ち上がった。
それを鞄に入れ、蒼君の顔を見ないまま立ち去ろうとした……のに。
気付いたら、蒼君に腕を掴まれていた。
「待って。俺に彼女って、何?」
「う……噂で……聞いたのっ……」
「噂で聞いて……それで?」
「そ、それでって……!」
勢い余って彼の顔を見てしまった。
すると蒼君は、仕方ないなとでも言いたげにフッと笑い、私の頭に手を乗せた。
「噂してた人達、何勘違いしてんのかな。俺、彼女なんていないよ」
「……へ?」
「好きな子ならいるけど」
「………」
彼女がいるって噂なんかより、ショックを受けてる自分がいた。