それでも君が。
下唇を噛み締めながら立ちすくむしかない私。
少しでもこの気持ちの張りを解放してしまったら、きっと、涙が溢れてしまう。
ギュッと鞄の持ち手を握っていると、蒼君が私の机に腰を下ろした。
「羽月。ここ、来てよ」
「え?」
見ると、蒼君は自分の開いた足の間を指差していた。
そこに立てってことかと理解し、何も言わずに首を横に振った。
「何で? 手ぇ繋いだりだとか、よくするだろ。一緒に寝たりもするし」
「それは! ち、小さい頃の話でっ……」
「いいから、来てよ」
「……そ、君……」
「うん。早く」
こんな風に彼に見つめられたら、もう何も言えない。
外から差し込むオレンジ色の光の中、私の影が静かに動いた。
机に浅く腰掛ける蒼君の足の間に立つと、自分の胸の鼓動が、これ以上ないくらい強く速くなっているのに気付く。
彼は背が高いから、座っていてもすごい存在感で……
座っているというのに、目の前には蒼君の喉しか見えない。
──いつの間に、こんな、喉仏とか出っ張ってきたんだろうと思う。
いつの間に……こんなに男っぽく、カッコ良くなっちゃったんだろう。